レビュー:「異世界おじさん 1巻」異世界から“帰ってきた”おじさんの異世界回想録とそこはかとないリアルがある気がする日常コメディの融合、そしてSEGA。

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異世界おじさん 1巻

漫画にせよ小説にせよ何にせよ、主軸をどこに置くのかで物語というのは続くわけでして。例えば主役が死んで終わる物語もありますけど、その世界が終わるわけじゃない。……アレ? 案外、すべてを無にして終わる物語というのはとても稀有なのかもしれない……。そんな事をまったく“思わせない”、異世界から“帰ってきてから”のおじさんの物語。

浦島太郎状態なおじさんとセガ

異世界。ファンタジー好きなら憧れるかもしれない単語。まぁ、某“なろう”系のモノを読んだりしていると、車(おもにトラック)にはねられたり、通り魔に刺殺されたり、神の都合でぽっくりだったりとまともな異世界訪問劇が少ない気はしまくるけど、それでもあり余る魅力がある……はずなのが“異世界”なのだ。

この物語の進行役は、“たかふみ”くん。そして、メインたる存在は、“たかふみ”くんの叔父さんだ。彼は、17歳の時にトラックにはねられ17年間昏睡状態にあったが目覚める事になる。叔父さん曰く、異世界「グランバハマル」に17年いて、ようやく帰ってきたとのことだが、それを聞いた“たかふみ”くんの反応はとてもリアルだ。

そう、本人が異世界にいっていようが何しようが、残された人たちにも生活があるわけで、現実はそんなモノなのだと思い知らせてくれる。そんな中、叔父さんは異世界にいた証拠として魔法を使ってみせてくれる。異世界から能力を持ち帰ることができた系だ。それを目の当たりにしたたかふみくんは、叔父さんの力を金にかえて食っていこうと決意。とてもしたたかな子である。

そして極めつけは、叔父さんの歴史は17年前の日本で止まっているわけで、叔父さんが気になっていたのはまさかの“ゲームハード戦争”。ゲームハードという名の企業間競争を指している単語だけど、叔父さんは“セガ”信者(愛好家ともいう)と認定するほかないだろう。そもそもサミーと経営統合した事やセガからセガゲームスに社名変更したことさえ知らないとなると、そりゃまぁ驚愕の事実なのかもしれない。……僕もメガドライブやサターン、ドリームキャストを持っていた(元よりSNKハード以外はだいたい網羅してた)けど、撤退しちゃったもんなぁ……。

おじさんとツンデレエルフ

魔法が使えるということでYouTuberとして生きることにした叔父さんと、ルームシェアを始めたたかふみくん。さっそく異世界での生活を聞き出すが、異世界人はみんな美形すぎてカッコイイとはとても言えないおじさんは、オークの亜種として狩られかけるという大変重たい始まりを語り出す。

異世界の基準では魔物のように醜い容姿だったが故、基本的に17年間一人で冒険しつづけた叔父さんだが、毎日つきまとってきて人格否定や罵倒をしてきた“最低”のやつがいたという。しかして、その台詞をよくよく聞くと、今で言うなら“ツンデレ”というヤツである事にたかふみくんは気づいた。そう、叔父さんは“ツンデレ”を理解していなかったのだ。

当時からツンデレキャラはいたモノの、理解が浅い叔父さんはツンデレの概念にまるで気づかない。せっかくカワイイツンデレエルフというどこかのテンプレ的展開なのに、まるで意に介さない叔父さんはある意味正しい。ツンデレなんてモノは、理解できなければ罵声罵倒に過ぎないのだと思わせてくれた……気がする。いや、それでもカワイイモノはカワイイですし、今後もどんなエピソードがあるのか期待せずにはおれませんけど。

おじさんと現実

また、現実世界と17年のブランクを抱え込んだ叔父さんは、そのギャップをジワジワ思い知らされる。例えば、“こち亀”の終了を知らなかったり、“笑っていいとも!”の放送終了を知らなかったり。セガだけじゃない時事ネタも、しっかりとちりばめられているあたりは、現実とリンクさせやすい要素だ。

といったところで、すでに異世界で散々な生活をしていた叔父さんは、異世界に行く前でも見る人にとっては残念に見えてしまう人生を歩んでいた。初恋は小学校の頃店頭のデモで見たソニックとテイルスというゲームキャラだし、人間相手の話だと七瀬楓というこちらもゲームの登場キャラクター。うん、実に尖っている。この叔父さんというキャラクターの方向性は、嫌いじゃありません。

“昔”のセガ好きは読もう、そして一風変わった“異世界から帰還した後の物語”を楽しもう

この漫画のキモは、浦島太郎状態である叔父さんが現実を思い知るというギャップ。まったくといっていいほど上手くいかなかった叔父さんの異世界での思い出(だいたい酷いオチ)。叔父さんはセガが大好きすぎるという三段構えな設定が、見事に“王道じゃない”物語を作っているというところだろう。特にセガ大好き設定はズルい。ガーヒー(※ガーディアンヒーローズというゲームの略)の順位でブチギレる事ができる叔父さんなんて、ほぼ何でもアリといっているようなモノじゃないですか……。

もちろん、セガで笑いが取れるかどうかは人次第だ。“知っていれば”面白いし、“知らなければ”理解しづらい。それは間違いない事だ。だが、分かる人には劇的に面白いモノであることに間違いはない。ターゲットが極めて明確とも言うべき部分だし、今があるからこそ昔を笑い話にできるという話にも思えてならない。

他にも、たかふみくんや叔父さん以外のキャラクターとして回想で出てくる引きこもり少女“メイベル”や、たかふみくんに惚れているようにしか見えない友人“藤宮”さんなど、気になる脇役たちもちらほらと登場してくる。今後どれほど絡む事があるのかはわからないが、色んなキャラのエピソードは見てみたい。特に藤宮さん、頑張れ。……本当に、頑張れ?

この話は“異世界から帰ってきたあとの話”であることに間違いはないんだけど、その一方で王道じゃない事を良い意味でやらかしている感満載で、特に昔のセガが好きだった人たちには刺さりやすい代物だ。今後も、セガネタが尽きることなくマイペース叔父さんの異世界エピソードを交えた現実生活を、こっそりと応援し続けたく思う次第であります。……あ、叔父さんのYouTubeチャンネルあったらマジで見たいっす。