レビュー:「乙女文藝ハッカソン 1巻」物書きを目指す人たちに届け! 創作をする楽しさと苦労と指南が見られる文藝譚

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乙女文藝ハッカソン 1巻

漫画ブログのレビューを書くくらいだから漫画好きである事に間違いはないのですけれども。こう見えて、小説も大好きでして。SF、ファンタジー、ミステリー等々、なんだかんだと結構読みます。だからこそ、物書きな方々にはぜひ読んで欲しいと思うのです。

ハッカソンとは?

「ハッカソン」という単語をご存じだろうか? IT関連用語のハック(Hack)と運動のマラソンをかけあわせた言葉で、一般的には主題に対し参加者が個人もしくはチームで目的を達成するために短期間(数時間から数日)で成果物を作りあげ、それぞれ評価するというイベントの事を指す。たとえば、ゲームを数人で分業ないし協業しながら短時間もしくは数日で作りあげる“ゲームジャム”と呼ばれるイベントは、ゲーム開発ハッカソンというわけ。

そんなハッカソンは「文藝でもやっているのだぞ!」というのがこの漫画。主人公は作家になりたいと早稲田を受けたけど華麗に落ち、栃木大学へ入学することになった安達倉麻紀(あだくらまき)。東京の清瀬を日本の首都だと言い張る彼女の立ち位置は、“何か書いてみたいけど書いた事がない人”で、集団での作業においては「初心者だから教えを請う立場」になる。

執筆処女な麻紀は文芸サークルに興味を示すが、栃木大学にはいくつもの文芸部があることを知る。そして、その中から最強の文芸部を決めるための「文藝ハッカソン」の存在を知らされる。こうして麻紀は、「ハッカソン」に巻き込まれながら物書きとして成長していく……はず?

創作の楽しさと辛さと指南

何も書いたことがない麻紀は、自分が思いついた“介護”をテーマに先輩二人から3時間で1200字のショートショート(極めて短い物語)を書くことを提案される。ショートショートはアイデアがあれば30分でかけると言われやり方を提示され麻紀は気合いを入れるが、“何も思いつかない”という初心者らしいつまずきを見せてしまう。そして、何も思いつかなかった麻紀は雑談の中で、ズバッと重たいことをつぶやく。

麻紀が言ったことは、人として直球では言わないほうが良い事に間違いない。だが、“介護”というテーマなら避けては通れない問題である事も間違いはないだろう。創作において、実体験を元に文章化することでとてもリアルな描写を成す時がある。だからこそ、二人の先輩はそれをすんなり受け止め創作に転用できることを教えてくれる。

そしてお風呂で閃いた麻紀に、書くときに気をつける事を端的に、しかしてちゃんとポイントは伝授してくれる。そして、書き終えた物語をしっかり“漫画で”紹介しているのもポイントが高い(何のポイントかはわからん)。“文藝”を“漫画”で紹介しているというのがこの漫画のキモの一つなのだろうと言わざるを得ない。この路線、嫌いじゃありません。

集団で作るvs個人で作る

そんな処女作を書き終えた麻紀が住む寮に、作家デビューをしている“野原焚”が入居してくる。すでに作家として活動している彼女は、PCを魔改造してキャリーケースに入れて持ち歩き、スマホで音声入力をしながら1日5万字を書き上げるというある種の変人だ。ただし、すでに新人賞を取った作家であるがゆえに、ヌルく集団でなれ合っているようにしか見えない麻紀たち3人に対し持論をぶつける。

そう、戦争である。意見が対立したとき、モノを言うのは成果物だ。この対決構図は、ハッカソンで“協業”するメリットとデメリット、個人で作業するメリットとデメリットの対決といって良い。そして、二人の先輩はそれを丁寧に説明してくれる。この漫画の良い点は、ちゃんと“デメリット”も伝えているところで間違いはない。

そういうわけで、暇をしていた准教授を巻き込み「文藝ハッカソン」で白黒付けるという展開になる。お題は麻紀と野原焚と准教授が一つずつだした「えっちな話」「お母さん」「秘密」の合計三つ。そのテーマに従って物語を作るために案を出し合う三人だが、やはり麻紀は「何も思いつかない」という初心者のポジションを見事にやってくれる。だからこそ、どんな荒っぽい案でも絶賛してくれる二人の先輩は本当に心強い。これぞハッカソンであり、「分業する意味」の一つといっても良い。

一方、一人で作ることになる“野原焚”は、一人でお題を考えていたときに、天啓が降ってきたようにアイディアを思いつく。そして、勝負は次巻へと続くというどうみても「続きが気になりすぎる」引きをみせてくれるのであった……。

物書きを目指すなら読んで損はしない

文藝について、また文章の書き方を文字ベースで教えてくれる指南書はこの世の中に幾多もある。だが、ハッカソンを通じて漫画という一つの物語を形成しながら物書きのノウハウを教えてくれるというのは、物書きを目指す人や、すでに物書きな人にとっても参考として色々思わせてくれるところがあるのではなかろうか。協業に興味がなくても、「物書きを目指す」人なら損はしない内容であることに間違いはない。

それでいて、都合の良い話だけではなく「構想は語れど実際には書かない人」というエセ物書きあるあるをさりげなく入れていく姿勢も嫌いじゃありません。これこそ、妄想の域を出ずに自身の妄想を言語化、文章化、物語化できない人が辿る道である事を示してくれる。僕はかつて編プロに勤めていた頃「文章が上手くなるには文章を書き続けるしかない」と教わったけど、本当にそうだと思う。物書きを目指すなら「妄想を文章化する」しかないのだ。

物書きとして、ジワジワと協業を始めた初心者主人公「安達倉麻紀」だが、ハッカソンを通じて麻紀がどのように大成していくのか、そもそも大成するのか? といったところまで、とても興味が尽きない。「頑張れ、麻紀ちゃん!」と声援を送りつつ、次巻以降の展開も楽しみに正座して待ちたいと思う次第であります。