レビュー:「乙女文藝ハッカソン 2巻」今回も“物書きあるある”がたくさん! 野原焚との勝負の行方とハッカソンメンバーが集う乙女たちの文藝青春譚

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乙女文藝ハッカソン 2巻

クリエイティブな仕事をする人たちというのは、だいたい“作る事が楽しい”と思える人たちが多いような気がしていまして。いやま、それは僕の周囲の話だけなのかもしれないけど、娯楽を享受するだけではなくそこから何か“新しいモノを産み出そう”として提供する側へと移ろうとする原動力を、僕はいつも尊敬し続けたく思うのです。……良い事書いた感、満載です。

苦戦する先輩たちと強面教授

1巻では、物書き初心者でハッカソンも初体験な我らが主人公“安達倉麻紀”ちゃん、SF研究部の“嶋原芙美”先輩、ミステリー研究部の“別田高菜”先輩の3人組 vs すでにプロとして活躍している“野原焚”という集団創作と個人創作の勝負になっていた。お題は、「えっちな話」「お母さん」「秘密」の合計三つ。野原はプロらしく天啓の名の下に物語を苦戦することもなく作りあげるが、一方で我らが麻紀ちゃんたちはまさかの先輩二人が苦戦。テーマがテーマなだけに難易度を見誤っていた二人は、先輩風を吹かせていた手前徹夜を覚悟をする。

乙女文藝ハッカソン 2巻

徹夜を覚悟する怖い目をした二人(2巻:14ページより引用)

どうにか完成させ提出した短編小説を講評するのは、文藝学科の准教授“女川真弥”先生。その名字とは似使わぬやくざ顔の強面教授だ。そして、1万字の短編をわずか2コマで読むという芸風も見せてくれる。うん、嫌いじゃない。先生は強面ながらに、野原の短編には大学がビリビリ震えるほどの号泣を見せ、麻紀ちゃんたちの短編には大学がビリビリ震えるほどの爆笑を見せる感情豊かな先生だった。

乙女文藝ハッカソン 2巻

大号泣(2巻:18ページより引用)

勝負の行く末

野原の作品は「母娘のネトラレもの」という素直に“お題”に沿う形にしたモノ。凄く端的に言ってしまえば、母親が娘の彼氏を寝取る、という内容だ。そして母親の誘惑に負けない恋人キャラの登場で娘の救済エンドに向かうと思いきや……、といったオチが用意されている。短編の講評なので大筋は文字ベースで語られているけど、それが残念に思えるくらい凄く良くできているストーリーなのでぜひ読んでみてほしい。

乙女文藝ハッカソン 2巻

語彙力、僕も欲しいなぁ……。(2巻:33ページより引用)

一方、麻紀ちゃんたちの作品は大正時代から始まり平成へと続いていく花形職についた女性一族が、各時代の社会情勢を嘆きながら短い現役を終えるというシリアスで社会派な内容。じゃあどこに笑いどころがあったかというとその文体芸で、極限までに内容を詰め込むために改行どころか句点さえ一つもなく、感情が動くシーンをすべて台無しにしていくというところ。それらの二つの作品を比べて、教授は優劣をつけるなら野原の作品が優れていると告げた。なぜなら、麻紀ちゃんたちの作品にはお題である「秘密」の要素がごっそり抜けているからだと結論づけたからだ。

乙女文藝ハッカソン 2巻

圧が強い教授、嫌いじゃありません。(2巻:61ページより引用)

勝負に負けた悔しさのあまり、修行の旅に出てしまった二人の先輩。残された麻紀ちゃんに対し野原は、小説を上手く書くには小説をよく読むという物書きあるあるを告げる。本当によく言われていることだけど、物書きになりたい人は面白い・良いとされている作品をこれでもかと読み込む必要がある。なぜって、それが“世間一般で面白いとされているモノだから”だ。ぶっちゃけ、売れるには理由がある、というヤツ。そして麻紀ちゃんの小説を読んでいる量に問題はないとした野原は、麻紀ちゃんに文章表現が苦手だと指摘し大学が始まるまで添削千本ノックをする事を告げ、麻紀ちゃんは大学が始まるまで修行に勤しむことになるのであった。

大学生活の始まりと文藝ハッカソンの本格始動

そんなこんなで始まった大学生活。まずは、五月祭でおこなわれる文藝ハッカソンの予選へと話題はシフトする。予選の目的は3つで、文藝ハッカソンの普及と書き手が本戦に出場するかの判断材料、そして予選で好成績だった場合本選で足切りされないための措置。そのための予選だが、本選での副賞が「集団執筆の本場ハリウッドのシナリオ制作会社のインターン参加件」である事が告げられる。これはもう、集団だろうとそうじゃなかろうと物書きなら多くの人が興味を持つところだろう。

乙女文藝ハッカソン 2巻

おぉ、という感嘆が聞こえそう(2巻:106ページより引用)

そんな中、我らが麻紀ちゃんは野原焚に加え新メンバーの“帯田燈”(好きなジャンルはハイファンタジー)と3人で、どの文芸サークルに所属するかを話していた。そこで野原は麻紀ちゃんに、それぞれ違うサークルに所属している先輩“嶋原芙美”と“別田高菜”の両人と一緒に文藝ハッカソンをやらせようと焚きつける。……“野原焚”なだけに。(書きたかった)

一方そのころ、“嶋原芙美”と“別田高菜”の両人は最近書いていた小説が伸び悩んでおり、一度そのジャンルから離れてみる事を薦められた。そして、その5人で文藝ハッカソンをする事になる。

乙女文藝ハッカソン 2巻

どんなタイミングであれ、必要とされるのは嬉しいことです(2巻:139ページより引用)

麻紀ちゃんの立ち位置

5人で予選に出ることになったのは良いモノの、SF、ミステリー、ホラー、ハイファンタジーと好み・得意とするジャンルがバラバラ。話をまとめる以前の問題で、お互いのことがよくわかっていないという理由から2チームに分かれて文藝ハッカソンをし、それぞれの力を高めることにした麻紀ちゃんたち。

そんな中、一度SF離れを薦められた“嶋原芙美”とその事情を知らない麻紀ちゃんは「王道」をお題にチームとして話し合うが、SF話を一切出してこない芙美に驚愕する。そして、凄くストレートにSFも含めアイデアを出してほしいと告げ、芙美も素直に受け入れる。また、同じくミステリー離れを薦められた“別田高菜”も、ミステリー話を一切しなかったところ麻紀ちゃんに説得される形で受け入れた。好きなジャンルから一度離れろと言われた時の切なさや、好きなジャンルだからこそ“誰か”に認めてもらえた時の嬉しさ。この二人は、本当に救われたと思えてならない。

乙女文藝ハッカソン 2巻

そんなキラキラした目で言うの、殺し文句ですわ……(2巻:156ページより引用)

そうやってハッカソンをおこなっていった結果、麻紀ちゃんはディレクションが上手いのでは、と告げられる。つまり、方向性を示して意見をまとめる立場だ。ある意味、ジャンルに染まりきっていないからこそできる芸当にも思えるところだ。

ハッカソンの予選の行方や、“帯田燈”の実力は?

2巻では、文藝ハッカソンをするためのメンバーがしっかりと決まるという話になっているが、やはりそこらかしこに“物書きあるある”が詰め込まれていた。それに、序盤の野原が作り出した短編は凄く面白そうと思えてたし、むしろ読みたいとさえ思えてしまった。いやほんと、感心した。“そうきたかぁ”なんて、素で思ってしまいましたよ。ええ。

また、“物書きあるある”的に行き詰まってしまった先輩方を、しっかり認める麻紀ちゃんという構図。もうね、最高でしょ? 自分が本当にやりたいことを認めてくれる人がいる。創作業において、それがどれだけ心強いか。もちろんダメなところはダメだと指摘してくれる人も大切だけど、それでも集団でやる場合はその人の望んでいるモノを表立って否定するのはオススメできないやり方だし、かつて1巻の時には麻紀ちゃんが“野原焚”とのハッカソン対決で案がまるで浮かばなかった時、どんな雑なアイディアでも二人の先輩は褒めてくれた。こういう関係は、その………なんだ、青春してて凄く良いなぁ……。(語彙力が仕事しない)

そして、新キャラである“帯田燈”の実力も気になる。ハイファンタジーは競争率激しいジャンルだけど、“異世界モノ”などの流行はちゃんと抑えているのは発言からしっかり見て取れる。先の4人のように、何かしらの短編的なストーリーを見てみたくもある。“帯田燈”を含めた5人は、今後の予選でどういった結果を出すのか。次巻も麻紀ちゃんとメンバー4人の活躍を応援しつつ、正座しながら次巻の発売を心待ちにしたいと思う所存であります。……なお、2巻の最後にある8コマ漫画もわかる人にはわかるネタで大好きです。特に、エディタネタが。

乙女文藝ハッカソン 2巻

気になってしかたがない“帯田燈”(2巻:117ページより引用)

乙女文藝ハッカソン(2)
著者:
山田しいた
価格:
¥ 648
出版社:
講談社
内容紹介:
新入生・麻紀(まき)と大学2年の芙美(ふみ)、高菜(たかな)は、すでに文学賞で大賞を獲るなど活躍中の新入生・焚(たき)との文藝バトルに挑む。「文藝ハッカソン」本選に向けて凌ぎを削る麻紀ら3人のチーム力vs.集団執筆に対して懐疑的な実力派・焚の個人プレイ――はたして勝負の行方は!? 本選が近づくにつれ、個性的なライバルキャラも続々登場! 創作物がもっと好きになる乙女たちのアイデア合戦、第2巻!