レビュー:「たったひとつのことしか知らない」声だけでも伝わる優しい友情の形

  • カテゴリレビュー
たったひとつのことしか知らない

たったひとつのことしか知らない」は『ガイコツ書店員 本田さん』の本田先生が、男同士の長く続く友情について描かれた読み切り漫画です。

前提として

人付き合いとは、人生において一番大変なことなんじゃないかと思うことがある。それは子供の頃より大人になってからの方がはるかに多く、強く感じる。他人とはどうしたって環境も性格も価値観も違うものだし、似ることはあってもまったく同じ人間などいないだろうから。

そんな中で何十年も付き合いが続けられる友人というのは、ありがたいものだ。そして何年も直に会わなかったり、しばらく連絡が途絶えても付き合いが切れることがない、切れたと感じない相手というのは、何にも代え難い宝である。

2人の友情のあり方

非通知で掛かってくる電話は、電話に出て声を聞くまで相手が誰かもわからない。更に相手がどこから掛けているのか、どんなことをしているのかもわからない。そして番号がわからないために、こちらからは連絡を取れない。この漫画はそんな一方的な不定期電話を掛けてくる友人と、友人からの不定期電話がひそかな楽しみとなっている普通のサラリーマンの友情のお話。

そんな2人の付き合いは、小学校3年生の時に数週間だけ同級生になってから、20年も続いている。現在2人は30歳だ。まず20年間も電話だけでの付き合いで長続きしているのがすごい。そして非通知での電話でも不快に思わずむしろ楽しみにしているのもすごい。この時点で似た者同士なのかもしれない。

電話の内容は主に雑談。くだらない雑談もあれば、シリアスな雑談もあって面白い。相手の声のトーンなどで元気がなさそうだと判断すれば冗談で元気付け、真面目に問われれば本気で考えて答える。20年も続く不定期電話だけでお互いの精神安定剤になっているようなやり取りは、とても優しいものだ。

電話だけでも話す時間が短くてもコミュニケーションは取れるし、お互いがその状況に不満がなければ縁は続くものなのだなぁと強く思わせてくれる。そこに他人からのケチが付いたとしても、そんなの何も関係なく自分達が良ければ良いのだ。付かず離れずの関係は案外心地良い。

海外にいる赤岩は始めスタイリッシュに仕事をするビジネスマンかと思いきや死と隣り合わせている。一方日本にいる藤ノ木は普通のサラリーマンで、仕事と人間関係でくたびれ酒で癒やす日々を送っている。しかし2人の考えや意識はそんなにズレを感じず、読み進めると徐々に絆が深まっていくのを感じられる。きっと電話が繋がるたびに絆も高まっていっているに違いない。

映画化してほしいくらいの作品

友人同士の電話のやり取りの後ろで繰り広げられるドラマが素晴らしい。ミステリー&バイオレンス、アクション&ヒューマンドラマ。どれも含まれているような内容だ。片や平凡な日常を送り、片やハードな環境に身を置かれているのに、会話に差異は何も感じられずむしろ温かみを感じる。

藤ノ木の場面では社会に出ている人間ならだいたい把握出来るのではないかと思う内容で、とても感情移入しやすい。赤岩の場面になれば日常からかけ離れた内容で読んでいるのがとても楽しい。個人的にはこれは日本映画じゃない、ハリウッドで映画化してほしいくらいの出来上がった作品だと思っている。というか、ハリウッドで作ったらめちゃくちゃカッコイイ面白い作品になること請け合いだ。

時が経ち更に10年後、2人が40歳になったあたりでようやく再会するわけだが、30年も会ってなかったのに出会った瞬間お互いわかるのも、電話と同じように普通に話すことにもほっとした。そして小学生の時と変わっていない一面を見れた時には、何とも暖かい気持ちになれた。ちょっと変わった男2人の友情物語だけど、読後感は最高に良い。